「ハブに噛まれた!」は労災認定されるのか?
ティッシュです。
当ブログでは労働基準法のなんたらかんたらを紹介してきましたが、今日は、趣向を変えて労災のお話をしましょう。
まず、一つの事例を紹介します。
「沖縄のとある作業場で、一人の配管工が荷卸しされたパイプを整理していたところ、周辺に生息するハブに噛まれて負傷した」
さて、「ハブに噛まれた」は労災認定されるのでしょうか?
まず労災って何?
労災とは労働者災害補償保険法の略です。
労働者が業務が原因で疾病・負傷したとき、国がその補償を行うというものですね。
もちろん、労災の補償給付が行われるためには、労働基準監督署の厳しい認定が下りなければなりません。
業務起因性と業務遂行性
労働基準監督署の認定基準は2つあります。
一つ目は「業務起因性」、二つ目は「業務遂行性」です。
業務起因性とはその仕事をやっていたからその事故が起きた。というもの
たとえば
「とび作業員が足場から落ちた」
「金属加工作業員がプレス機に手を挟んだ」
「調理師が鍋の熱でやけどをした」等々
その仕事に関係ない事故はもちろん労災の認定は行われません。
次に業務遂行性とは、事故当時に上長の指揮命令に従っていたこと。です。
つまり、休憩中や、本来自分の仕事と関係のないことをやっている間の事故は労災の認定は行われないということです。
難しい単語がたくさん出てきましたが、簡単に言えば
「上司の命令に従って仕事をしていた時に起きた事故」程度に見ておけばOKです。
ハブの事例の場合は?
ハブの事例には業務起因性と業務遂行性があるのでしょうか?
今回の場合、配管工は上長の命令に従ってパイプ整理をしていたならば、業務遂行性が認められますね。簡単です。
では、業務起因性はどうでしょうか。
「パイプの整理をやっていたからハブに噛まれた」と言えるのか?
うーん、「落としたパイプが足に当たって負傷した」という場合ならば業務起因性が認められそうですが、当該事例では関連性が薄い気がしますね。
答えは業務起因性が認められました。
国の判断としては、「沖縄のその地域にハブが多く生息している」ということは客観的に自明であるために業務起因性があると判断したわけです。
つまり「東京のど真ん中でペットショップから逃げ出したハブに噛まれた」は労災認定されませんが「沖縄の草むらで野生のハブに噛まれた」は労災認定されるということです。
おんなじ仕事をしていたとしても、東京か沖縄かで労災認定されるかどうかが変わるということですね。労災もまた奥が深いです。。。
労災事故は遭わないに越したことはありません。どうぞご安全に!
というわけで、今日は労災のオモシロ事例でした!おやすみなさい!
~本稿のまとめ~
・労災とは労働者災害補償保険法の略で、業務上の怪我病気を国が補償してくれるもの。
・労災の認定を受けるには業務起因性と業務遂行性が必要
・沖縄の草むらにはハブがいることは明らかであるため業務起因性があると判断された。
・東京で同種の仕事をしているときにハブに噛まれても労災認定されない。
実物給与は違法なの? ~賃金通貨払いの原則~
こんばんわ、ティッシュです。
ここ数日肌寒いのに、帰宅したらクーラーのスイッチを入れる癖が抜けません。。。
賃金通貨払いの原則
さて、今日のテーマは賃金通貨払いの原則です。
その名のとおり、賃金は通貨で払わなければなりません。
通貨とは、その国で通用する貨幣のことで、日本ではお札とコインを指します。
「なんだよ!そんなのあたりまえじゃないか!」
と、お怒りの読者の皆さん、おっしゃる通りです。
では、通貨以外の給与とは何を指すのでしょうか?
自分の給与を確認してみると、通貨以外でもらってるものってありませんか?
通貨以外で賃金を払って良い場合
実物給与(通貨以外で支払われる給与)は賃金通貨払いの原則により、違法となる場合があります。
法令の趣旨としては、労働の対価として支払われる賃金が通貨以外のものだと、その時の物価変動によって価値が変わってしまったり、査定の方法によっては価値が不明瞭となってしまうことがあるため、それによる不利益を未然に防止するという目的があります。
では、どのようなときに適法になるのでしょうか?
それは、労働協約がある場合です。
「ロウドウキョウヤク?何それ、また難しい単語が出てきたよ。。。めまいがしてきた。。。」
難しくありません!
労働協約とは簡単に言えば、労働組合と事業主との間で結ばれる約束のことです。
つまり、法律上は実物給与はすべてダメ。しかし、労働組合と取り決めをしたものに限っては、実物給与として支給することが可能なのです。
ということはつまり労働組合がない会社では実物給与をしてはいけないんです。(ここが一番大事なポイントです)
ここで身近な事例をあげましょう。
「交通費の代わりに通勤定期を実物給与として渡してるよ」
「売れ残りの商品を給料の代わりに渡してるよ」
「業務上携帯電話を使うから、通信料を賃金の一部としてますよ」
「御社には労働組合があるんですか?」
「いやいや、ウチは家族経営の小さな会社だからソンナものはないよhahaha...」
と、これは違法なわけです。
身近な事例を見てみると、違法とは知らずに渡され、受け取ってしまう方がたくさんいるのではないでしょうか。
当然のことながら、本人の同意があったとしても適法となることはありません。
ちなみに、通貨払いの原則に違反した使用者には、30万円以下の罰金刑が科されます。悪気がないのに気づいたら違法状態であるというのが一番怖いです。
やはり、人を雇うということはすごーく大変な事なんですね。
~本稿のまとめ~
・賃金は価値が明瞭な通貨で払わなければならない
・労働協約がある場合に限り、実物給与が許される
・違反した場合は30万円以下の罰金刑がある
労働基準法の部分無効って何?
こんばんは、ティッシュです。
名前が「ティッシュ」ってなんやねん!?とお思いの方。
私は本ブログにしても、パソコンの管理者名にしてもツイッターのアカウント名にしても「ティッシュ」という名前を使ってます。
特に理由はありませんが、高校生ぐらいからこの名前を使い始めています。
どことなく気が抜けた響きと、英語で表記すると「tissue」というラテンチックな綴りに愛着を感じているんです。
部分無効って何?
さて、ではここからはマジメな法律の話。
今日は労働基準法は部分無効である、というお話をしましょう。
ずばり言葉通り、労働契約は労働基準法のボーダーラインを下回る内容は部分的に無効になるのです。
これは、すべての使用者が労働基準法を熟知しているかと言ったら、そうでないため、法律で労働者を適切な範囲まで保護しましょうという趣旨に基づいているわけです。
私も、行政の窓口で労働相談をすることがありますが、よくある内容としては
私「この労働条件通知書なんですが、労働時間が週48時間になってますけど、どのような働き方なんでしょうか?」
使用者「ああ、うちは1日8時間の週6日勤務なんです。ホラ、きちんと本人の同意書もありますよ」
私「この契約はダメですね、週の法定労働時間は40時間が上限です、ハミ出ている8時間については部分的に無効になってしまうんですよ」
使用者「え?そうなんですか…本人が同意しているのにですか?」
私「ダメです(キッパリ)」
使用者にしても労働者にしても、すべての人が労働基準法を熟知しているわけではないため、法律を知らなかったことによる損害を被らないように、強制的に無効になるわけですね。
まあ、知らなかったとはいえ、使用者が知らず知らずのうちに労働基準法違反をしてしまうことは十分に考えられます。
じゃあどうするのか?労働基準監督署の調査があるまで待ちますか?
違います。自ら労働基準法の知識を備え、違法な状態であることを感じたら、それに対して異議を唱えられるようになるのです。
たしかに、法律では定められていますが、事案が判明しなくては異議申し立てもヘッタクレもありません。
当ブログは、皆様労働者の味方です。
使用者の「やっていいこと」「やっちゃダメなこと」を少しずつ解説してまいりますが、皆様の自助努力にも大いに期待しているところであります。
何事も向上心をもって取り組むべきですね。
~本稿のまとめ~
・労働基準法違反の契約は、労働者の同意にかかわらずその部分について無効になる。
・世の中の使用者は皆、労働基準法を熟知しているわけではない。
・労働者側も、労働基準法を熟知しているわけではない。
入社前の話と違う!~労働条件の明示義務~
こんにちは、ティッシュです。
ここ数日、とっくに梅雨も明けたはずなのに、台風の影響なのかジメジメしてて嫌な天気です。
さて、今日のテーマは「労働条件の明示義務」です。
ちまたでよく聞く話の一つとして「入社前の労働条件と今の労働条件が異なる」というものがあります。
具体的には
「求人票に書いてあって給料と違う!」
「残業時間が言われてたより多い!」
「年間休日より少ない!」等々
ここで知っておきたいのが、使用者は労働条件を書面にて通知しなければならないということです。(労働基準法第15条)
民法上の契約は、原則口約束のみでも有効に成立しますが、労働契約については民法よりも労働基準法が優先します。
使用者の中には、それを理由に労働条件の明示をしなくてもよいと思っている人が少なくありません。
労働基準法15条では、のちのちになってから、言った、言わないの問題が発生することを未然に防止するため、書面による明示義務を課しているということです。
では、使用者側は具体的に何を明示する必要があるのでしょうか、以下に列挙しましょう。
1~5は書面にて明示しなければならない事項です。
1、労働契約の期間
2、就業の場所、従事する業務の内容
3、始業時間・終業時刻、残業の有無、休憩時間、休日に関する事項
4、賃金の決定・計算・支払いの方法、賃金の締切り・支払いの時期に関する事項
5、退職に関する事項(解雇の事由を含む)
6~14は口頭による説明のみでも差し支えない事項です。
6、昇給に関する事項
7、退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払いの方法、支払いの時期に関する事項
8、臨時に支払われる賃金、賞与などに関する事項
9、労働者に負担される食費、作業用品その他に関する項
10、安全・衛生に関する事項
11、職業訓練に関する事項
12、災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
13、表彰、制裁に関する事項
14、休職に関する事項
明示された労働条件と事実が相違している場合には、労働者は即時に労働契約を解除することができます。
また、労働契約の解除の日から14日以内に労働者が帰郷する場合には、使用者はその旅費を負担しなければなりません。
現在、会社勤めをしている方は、今一度、労働条件通知書の交付を受けているか確認しましょう。今後何か労働問題が起きた際に、その労働条件通知書が決定的な証拠になり、解決の糸口となることでしょう。
労働条件の通知は、正社員だけでなく、パートタイム労働者に対してもしなければなりません。学生のアルバイトだろうと何だろうと、人を雇うならば、所定の手順を踏まえなければならないということです。
特に、最近では学生諸君の労働諸法令の不知をいいことに、ブラックバイトと呼ばれるものが横行しているようですね。
ちなみに、定められた方法で労働条件の明示を行わない使用者に対して、30万円以下の罰金という罰則規定も設けられています。
このブログを読んだ、社長の中に、労働条件の通知を行っていない方がいましたら、速やかに労働条件通知書を作成し、交付してください。
何もしないで、ほったらかしよりは幾分マシですからね。
労働条件通知書のひな形をはっておきます。気になる方は確認してみましょう。
労働法を知らない社会人に読んでほしいブログ
初めまして、ティッシュです。ブログを開設いたしました。
このブログでは、きわめて難解な労働法令を解説します。
事例に従い正しい労働法令の知識を身につけ、ブラック企業から自らの身を守ることのできる企業戦士になりましょう。
さて、なぜ私がこのブログを開設したかというと、昨今の日本の労働環境の悪化と社会保険制度の不知は極めて深刻な問題であり、その改善に力添えしたいと考えたためです。
特に新規学卒や若者にとって労働法は馴染みのないものであるため、同世代を代表して知識を供したいと思っています。(筆者は25歳です)
労働法令の正しい知識を身につけていれば、労働時間の短縮、未払い賃金の回収、重大な労災事故の防止等に寄与します。
労働者の権利として、何を受け取ることができるか、何を拒否することができるかを明らかにすることで、上記のような問題を未然に解決することが目的です。
では、現在、我が国に数多見かける、いわゆる「ブラック企業」とは一体何なのでしょうか?
私たちのイメージは・・・
「残業代を払ってくれない!」
「拘束時間が長く、退勤時間が遅い!」
「休日出勤を命じられる!」
「有休がない!」
「セクハラ、パワハラは日常茶飯事!」等々
挙げればきりがありませんが、どれも私たちの生活や健全な精神を脅かす重大な問題であることが分かりますね。
私たちの中には、これらが原因で自らの命を絶ってしまう人も少なくありません。
今後このブログを通して、そのような人たちを一人でも減らすことができれば幸いであります。